受注が増えるほど現金が減った会社が、
着手金をもらうことにした(想定事例)
利益が出ていないわけではありません。払うのが先で、もらうのが後という順番が、受注量に比例して重くなっているだけです。
以下は、着手金をもらう形に切り替えた会社の想定事例です。
1. 【before】受注が増えるほど、現金が減った
従業員15名の内装工事会社。前年より受注が二割増え、社内の空気は良くなっていました。
ところが社長が見ていた通帳の残高は、逆に減り続けていました。忙しい月の翌月が、いちばん細い。
流れを並べると理由は明らかでした。契約したら材料を手配して先に払う。職人の手間は月末締めで翌月に払う。請求は完成してから出し、入金は翌々月。
つまり、一件ごとに出ていく日と入ってくる日の間が二か月以上開いている。受注が増えれば、開いている件数が増えます。
2. 立替の期間は、利益とは別に存在する
ここを混同すると打ち手を間違えます。立替の問題は、利益率を上げても消えません。
仮に一件の粗利が増えても、先に払う材料費がゼロになるわけではない。むしろ受注が増えた分だけ、先払いの総額は増えます。
社長が最初にやったのは値上げの検討でした。それ自体は正しい打ち手ですが、効いてくるのは数か月先です。いま足りないのは利益ではなく現金でした。
借入で埋めるという選択もあります。ただ、借入は立替の期間そのものを短くはしません。毎年同じ季節に同じ相談をすることになります。
3. 回収を早める話と、前にもらう話は別もの
資金繰りの打ち手として知られているのは、回収サイトの短縮です。出した請求をいつもらうか、支払条件を交渉する。これは効きます。
ただ、それは請求を出したあとの話です。今回の詰まりは請求を出す前、着工から完成までの区間で起きていました。
- 回収サイトの短縮: 請求日から入金日までを縮める。すでに売上になった分に効く
- 着手金・前受金: 着工日より前に一部をもらう。まだ売上になっていない区間に効く
- 中間金: 工程の途中で区切ってもらう。期間の長い仕事ほど効き方が大きい
- 併用できる: どちらか一方ではなく、区間ごとに別の手を当てる
社長が選んだのは着手金でした。理由は単純で、材料の支払日が着工直後に来ていたからです。
4. 【turn】言い出し方を、値引きの逆にした
いちばんの壁は言い出しづらさでした。資金が厳しいと思われるのではないか。
そこで言い方を変えました。資金の都合として頼むのをやめ、契約条件の設計として出す。
具体的には、見積書に最初から支払条件の欄を作りました。着工時に三割、完成時に七割。交渉の場で頼むのではなく、見積の様式に最初から入っている形にしたということです。
この違いは大きかった。後から頼むと例外のお願いになりますが、最初から書いてあれば条件の確認で済みます。
そして一文を添えました。材料を先に確保するため、という理由です。相手にとっても、材料が確保されることは利益になります。値引きの交渉は相手の取り分を削りますが、支払時期の設計は相手の取り分を削りません。ここが通りやすさの差になりました。
結果、新規の契約では八割がそのまま通りました。断られたのは、社内規程で前払いができない相手でした。
5. 金額と時期の決め方、断られたときの代わり
決め方は、感覚ではなく立替額から逆算します。
①着手金の額は、先に出る金額に合わせる。粗利や売上の何割ではなく、着工直後に自社から出ていく材料費と外注費の合計を基準にします。それを下回ると、もらっても足りません。
②もらう日は、払う日より前に置く。着工時という書き方だと、実務では材料の支払いに間に合わないことがあります。契約後◯日以内と日付で書くほうが確実です。
③期間の長い仕事は、中間金で区切る。三か月を超える仕事を二回の入金で回すのは無理があります。工程の節目でもう一回入れます。
そして断られたときの代わりを用意しておきます。材料の支給を相手にお願いする、あるいは材料だけ先に請求する。どちらも立替の額を減らす方向に働きます。前払いが規程で無理な相手でも、材料の扱いは変えられることがあります。
なお、前受金として受け取った分の会計処理や消費税の課税時期、契約書への書き方には関係法令および会計基準にもとづく取扱いがあり、顧問税理士および会計事務所への確認が前提です。ここで扱っているのは、どの区間の現金が足りないかを掴んで条件を設計する側の話です。
いまの仕事は、材料費を何日立て替えていますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。立替の日数と、着手金を言い出せる取引先を一緒に洗い出します。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、外から助言するコンサルではなく、複数の中小企業を自分たちで経営している集まりです。立替の重い商売も、前受けが当たり前の商売も、どちらも社内にあります。
並べて分かったのは、同じ業種でも支払条件は会社ごとにばらついているということです。業界の慣習だと思われているものの中に、単に一度も言い出していないだけのものが混ざっています。
FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 直近の案件で、出る日と入る日を並べる(無料ヒアリング): 立替の日数と金額を一件ずつ出す
- 詰まっている区間を特定する: 着工前か、完成後か。区間が分かると打ち手が一つに決まる
- 見積の様式に支払条件の欄を作る: 交渉ではなく様式にする
- 言い出す相手の順番を決める: 新規から始め、既存は更新や改定の時期に合わせる
いちばん抵抗が出るのは、長い付き合いの取引先に言い出すことです。ここは急がないほうがいいと考えています。新規の契約で様式を固めてから、既存先は条件を見直す時期に合わせて出す。先に社内の様式が変わっていれば、特別なお願いではなく自社の標準として説明できます。
なお、前受金の処理や契約条項の書き方については顧問税理士および会計事務所に必ずご確認ください。私たちが一緒にやるのは、その前段にある、どの区間で現金が詰まっているかを掴む作業です。