借入の一本化は、
減らす前に失うものを数える
ただ、ここで一度立ち止まる価値があります。本数を減らすこと自体には、資金繰りを良くする力はありません。楽になるのは管理であって、お金の出入りではない。
そして一本化の過程では、いま持っている条件のいくつかを手放すことになります。判断の順番は、本数を数える前に、失うものを数えることです。
1. 一本化が魅力的に見えるのは、管理が重いから
相談の入口は、ほとんどが同じです。『何本あるのか、正確には分からない』。設備資金、運転資金、コロナ期に借りた分、保証協会付き、プロパー。借りた時期も相手も条件もばらばらで、返済予定表が引き出しの中に散らばっている。
この状態が重いのは事実です。ただ、重さの正体は本数ではなく、把握できていないことにあります。ここを取り違えると、把握しないまま一本化に進み、条件の良かった借入まで巻き込むことになります。
実際、一本化して身軽になった会社もあれば、一本化した結果、月々の返済が増えて苦しくなった会社もあります。同じ手段で結果が割れるのは、判断材料をそろえずに決めているからです。
2. まとめる前に数える、四つの失うもの
①低い金利の既存分。数年前に低い金利で実行した借入が残っていることがあります。まとめれば、その分も現在の金利で借り直すことになります。平均すれば下がるように見えて、実は良い条件だけを捨てているという場合があります。
②残りの期間。ここが最も見落とされます。返済が残り2年の借入と、残り8年の借入をまとめると、期間の設定次第で月々の返済額は増えることも減ることもある。総額が同じでも、期間が短くなれば毎月は重くなります。比べるべきは金利より先に、毎月いくら出ていくかです。
③保証枠と取引実績。信用保証協会付きの借入は、枠の使い方や実績の積み上がり方に関わります。一本化の設計によっては、次に借りるときの選択肢が変わることがあります。ここは制度と個別事情の両方が絡むので、必ず金融機関に確認してください。
④複数行と付き合っているという保険。一行にまとめると、その一行の方針変更が直接効くようになります。取引先が一社に集中している状態を、資金調達でやっているということです。平時は効率的で、有事に弱い。
3. それでも一本化が効くのは、どういう時か
否定したいわけではありません。条件がそろえば、一本化は明確に効きます。目安は次の三つです。
高い金利の借入が全体の大きな割合を占めているとき。ノンバンクや高利のものが混じっているなら、まとめる価値があります。
毎月の返済が資金繰りを圧迫していて、期間を延ばす必要があるとき。この場合の目的は金利ではなく月々の返済額を下げることです。目的が違えば、交渉の材料も変わります。
本業の状況を説明できる資料がそろっているとき。一本化は新しい融資なので、審査があります。資料がそろわないまま持ちかけると、断られた記録だけが残ります。
4. 本数より先に効く、返済カレンダー
そして多くの会社にとって、一本化より先に効くものがあります。返済カレンダーです。作業としては地味ですが、効果は確実です。
- ①全借入を1枚に並べる: 借入先・当初金額・残高・金利・毎月の返済額・毎月の引落日・最終返済日。7項目だけで十分です。表計算で構いません
- ②引落日を月内の日付順に並べ替える: ここで初めて、月のどのタイミングで資金が出ていくかが見えます。入金が月末で、返済が月初に固まっていれば、それだけで毎月ひやりとする理由になります
- ③向こう12か月の返済総額を月別に出す: 完済で落ちる分があると、ある月から急に楽になります。この山と谷を知らずに借り増しの判断をしている会社は多い
- ④入金の主な時期を同じ表に重ねる: 売掛の入金と返済の集中日がずれているなら、本数を減らすより引落日をずらす相談のほうが早い。銀行によっては応じてもらえます
この表を作ると、一本化すべきかどうかも自然に判断できます。重かったのが管理なのか、返済額なのか、時期のずれなのかが分かれるからです。原因が時期のずれなら、一本化しても何も解決しません。
5. 銀行に持ちかけるときの順番
私たちBEYONDは、9社の中小企業を自分たちで経営しています。借入の整理は、どこか一社の話ではなく全社で毎年向き合う実務です。その経験から言えるのは、持ちかける順番で結果が変わるということです。
まず、いちばん取引の長い銀行に、相談として先に持っていく。いきなり他行に借換えを打診すると、既存行との関係に影響します。長い取引がある側には、まとめる案を作ってもらう機会を先に渡すのが筋です。
次に、持っていくものは返済カレンダーと、直近の試算表と、資金繰り予定表。ここで『何本あるか分からないので、まとめたい』と言うのと、『向こう12か月の返済はこの形で、この月に山が来る。ここを平らにしたい』と言うのとでは、返ってくる提案がまったく違います。数字を持って行く相手には、銀行も具体案で返してきます。
そして、一本化ありきで話を始めない。目的は返済を平らにすることであって、手段は一本化でも、期間の延長でも、引落日の変更でも構わない。手段を先に決めて相談すると、その手段の可否だけが議題になります。目的を伝えれば、選択肢はいくつも出てきます。
借入の整理は、身軽になるための作業です。身軽さは本数ではなく、来月いくら出ていくかを即答できるかで決まります。まずはその1枚から始めてください。
来月、いくら返済で出ていくか即答できますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。返済と入金のタイミングがどこでずれているかを一緒に確認します。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、借換えを勧める立場でも止める立場でもありません。実際に返済の山が平らになり、来月の資金繰りが読める状態になるところまで一緒に動きます。FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 現状の棚卸し(無料ヒアリング): 全借入を1枚に並べ、金利・残期間・毎月返済額・引落日をそろえる
- 12か月の見通しづくり: 月別の返済額と入金の時期を重ね、山と谷、ずれている月を特定する
- 打ち手の比較: 一本化・期間延長・引落日変更・据置の相談を並べ、失うものと得るものを金額で比べる
- 銀行に持っていく資料づくり: 目的を先に書いた形にそろえ、相談の順番を決める
本数を数えるのは、失うものを数えたあとです。