季節で資金が振れるのは、宿命ではなく予定
── 谷を先に埋める
たしかに、売上の山と谷は業種で決まります。飲食にも、建設にも、小売にも、動かしにくい波がある。
ところが、谷が来る月は毎年ほぼ同じです。同じ月に同じことが起きるなら、それは宿命ではなく予定です。予定なら、先に埋められます。
問題は振れることではありません。振れると分かっているのに、直前まで手を打たないことのほうです。
1. 『季節だから仕方ない』が高くつく理由
一つ目は、直前に動くと選択肢が一つしかなくなることです。谷の1か月前に金融機関へ行けば、審査に時間がかかり、条件の交渉余地は乏しく、そもそも間に合わないこともある。同じ金額を借りるにしても、いつ話を始めたかで条件は変わります。
二つ目は、言葉が検討を封じることです。『季節だから』と口にした瞬間、社内での議論が止まります。仕入の時期、支払条件、前受けの設計、閑散期に売れるもの。どれも動かせる余地があるのに、宿命という枠に入れた途端、誰も手をつけなくなります。
三つ目は、毎年同じ場所で消耗することです。谷のたびに社長が資金の算段に追われ、その月は経営の判断が止まる。年に一度、確実に訪れる時間の損失として計算すると、決して小さくありません。
2. 谷は、売上ではなく現金で描く
ここが最初のつまずきどころです。売上の谷と、現金の谷は同じ月に来ません。
入金が1か月から2か月遅れる商売なら、現金の谷は売上の谷より後ろにずれます。一方、仕入や人の手配は繁忙期の前に出ていく。出るのが先、入るのが後——この時差の分だけ、現金の谷は売上のカレンダーからずれた場所にあります。
やることは一つです。直近24か月の月別入金額と月別出金額を、横に並べます。表計算に24列でかまいません。
2年分並べるのが要点です。1年分だと、それが季節性なのか一過性の出来事だったのかが区別できません。2年並べて同じ月に同じ形の谷があれば、それは来年も来ます。ずれていれば、季節ではなく別の原因です。
3. 埋め方は、三つしかない
谷の月と深さが分かったら、埋め方を選びます。方法は三つしかありません。
- ①手元に厚く持つ: 谷の深さの分を現金で持っておく。最も確実ですが、資金効率は落ちます。金利のある局面では、借りて持つコストも効いてきます
- ②借入枠で埋める: 当座貸越や季節資金の枠を用意しておく。使ったときだけ利息がかかるのが利点。ただし枠は、資金に余裕があるうちにしか作れません
- ③商売の形を変えて、谷を浅くする: 前受け、年間契約、閑散期向けの商品、支払条件の交渉。一番効きますが、時間がかかります
順番があります。まず②で当面の備えを作り、並行して③に着手する。①だけに頼ると、資金効率が悪いまま固定されます。そして③は成果が出るまでに一年以上かかるので、②で時間を買っておく必要があります。
③について一つだけ具体を書くと、閑散期に何を売るかより、閑散期に何の代金を受け取るかを考えるほうが早い。年間契約の請求月を谷に寄せる、保守料を前払いにする。商品を作らなくても、請求のタイミングだけで谷は浅くなります。
4. 調達の時期は、谷から逆算して決める
谷の月が特定できれば、いつ金融機関に話をしに行くかが自動的に決まります。目安は谷の6か月前です。
理由は三つあります。決算書が使える時期に合わせられること。審査に必要な期間を確保できること。そして、条件を交渉する余地が残ること。急いでいる相手に良い条件は出ません。
もう一点、重要なことがあります。谷の直前ではなく、山のときに話に行ってください。数字が良いときのほうが、枠も条件も通りやすい。借りる必要がない時期に枠を作っておくのが、季節変動のある商売の基本形です。
持っていく資料も決まっています。月別の入出金の実績を2年分と、向こう12か月の見込み。この2枚です。谷がどの月にどれだけ来るかを自分で説明できていること自体が、信用になります。振れることが問題なのではなく、振れを把握していないことが問題視されるからです。
5. 毎年やることを、カレンダーに固定する
この作業は、一度やって終わりではありません。毎年、同じ時期に同じことをやる形にしてください。
たとえばこうです。決算後の月に前年の月別入出金を更新する。翌月に向こう12か月の見込みを作る。その次の月に金融機関と面談する。そして谷の前月までに、仕入と支払の計画を確定する。日付を先に決めておけば、忙しくても流れます。
そして、これを社長の頭の中ではなく、共有のカレンダーに置いてください。頭の中にあるうちは、担当者が代わった年に必ず抜けます。季節変動への備えは、個人の記憶ではなく年間業務として持つものです。
現金の谷が来る月、即答できますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。月別の入出金を並べて、谷の月と深さを一緒に出します。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、9社の中小企業を自分たちで経営しています。季節の振れが大きい商売も、ほとんど振れない商売も抱えています。FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 月別入出金を2年分並べる(無料ヒアリング): 季節性か一過性かを、まず切り分ける
- 現金の谷の月と深さを特定する: 売上ではなく入出金で見る。回収サイトと仕入の前倒しを織り込む
- 三つの埋め方の配分を決める: 手元資金・借入枠・商売の形。どこまでを枠で、どこからを構造で埋めるかを決める
- 金融機関との面談時期を決める: 谷から6か月前を基準に、持っていく資料まで一緒に作る
振れること自体は、直す対象ではありません。直すのは、振れが読めていない状態のほうです。谷の月と深さを言えるようになった時点で、この論点の半分は終わっています。