政策金利は1.0%で据え置き
── 手元資金は、何か月分あればいいか
据え置きではあるものの、引き上げの提案が出ているという状況です。金利が下がる方向へ大きく動く展開は、当面は考えにくい。
この前提に立つと、手元資金をいくら持つかは決め直す価値のある論点になります。持ちすぎれば調達コストを払い続け、少なすぎれば一度の遅延で止まる。よく言われる月商3か月分という目安は、多くの会社に当てはまりません。
1. 月商3か月分という目安が使えない理由
手元資金の目安として最もよく聞くのが月商の3か月分です。分かりやすい反面、実務では外れます。理由は三つあります。
一つ目、月商と支出は連動しない。月商1億円でも、そのうち8,000万円が仕入で右から左に流れる卸売業と、月商1億円のうち6,000万円が自社の人件費という業種では、必要な現金がまったく違います。月商は、出ていくお金の大きさを表していません。
二つ目、入金の周期が業種で違う。月末締め翌月末入金なら遅れは1か月ですが、着工から完成引渡までが半年の工事業なら、その間ずっと自社が立て替えています。同じ売上でも、必要な期間が違う。
三つ目、借入で調達できる額が違う。手元に置く現金と、いざというとき借りられる枠は、実質的に同じ役割を果たします。枠を持っている会社は、現金を厚く積む必要が薄い。ここを無視した一律の目安は、意味を持ちません。
2. 起点は売上ではなく、固定費と入金の谷
見るべき数字を変えます。売上がゼロになっても出ていくお金と、入金が最も薄くなる月。この二つです。
毎月の固定支出には、人件費、家賃、リース、保険、水道光熱の基本料金に加えて、借入の元金返済を必ず入れます。返済は損益計算書に出てこないので、忘れられがちです。ところが現金は確実に出ていく。
入金の谷は、月別の入金額を12か月並べれば見えます。賞与月、決算月、業界の閑散期。谷が深い月をひとつ選び、平均との差額を上乗せする。ここまで含めて、初めて自社の数字になります。
3. 自社の必要額を出す、三つの数字
難しい計算は要りません。紙の上で三つ書きます。
①毎月の固定支出。上記のとおり、元金返済を含めた月額。
②耐えたい月数。ここが経営判断です。目安として、主要取引先が一社止まったとき、代わりを見つけるのに何か月かかるかで考える。3か月で埋められる商売なら3か月、半年かかる商売なら6か月。業種の慣行ではなく、自社の営業力で決まります。
③入金の谷の深さ。12か月の入金を並べて、最も薄い月と平均の差額。
この三つで、①×②+③。これが自社の必要額です。実際に計算すると、月商3か月分より少ない会社も、多い会社も出てきます。どちらであっても、根拠のある数字になっていることのほうが重要です。
4. 金利のある世界では、持ちすぎにも値段がつく
ここが以前と変わった点です。金利がほぼゼロだった時期は、借りて持っておくコストが実質的に無視できました。だから多めに借りて厚く持つのが、ほぼ無条件で安全策だった。
政策金利が1.0%の水準にあり、さらに引き上げの議案が出ている状況では、話が変わります。使わない現金を借入で持ち続けると、その分の利息が毎年出ていきます。1億円を余分に借りていれば、金利差の分だけ確実に利益が減る。
とはいえ、資金繰りが詰まるリスクと比べれば、利息は安い保険です。だから答えは減らすことではなく、必要額を根拠を持って決めることになります。なんとなく厚く持っている状態と、計算して厚く持っている状態は、金額が同じでも経営としてはまったく違います。
5. 置き場所を三つに分ける
私たちBEYONDは、9社の中小企業を自分たちで経営しています。手元資金の議論で毎回出るのが、いくら持つかと同じくらい、どこに置くかが効くという点です。
- ①即日使える現預金: 毎月の固定支出の1〜2か月分。ここは利回りを考えず、動かさない。メインバンクの口座に置いておく
- ②数日で動かせる資金: 定期預金など。耐えたい月数の残り分をここに置く。すぐ解約できる形にしておくことが条件です
- ③借入枠: 当座貸越や、いつでも引ける枠。現金と同じ役割を果たしますが、利息は使ったときだけ。枠を維持する交渉は、資金に余裕があるうちにしかできません
③を持っている会社は、①②を薄くできます。逆に枠がない会社は、その分を現金で積むしかない。手元資金の議論は、実は銀行との関係の話でもあります。
そして、この三つに分けておくと判断が速くなります。急な支出が出たとき、どこから出すかが決まっているからです。分けていない会社は、口座残高を見て、そのつど不安になる。同じ金額を持っていても、心理的な余裕がまったく違います。
金利が据え置かれた今は、腰を据えて計算し直すのに向いた時期です。上がってから慌てて動くと、条件の悪い調達しか残っていません。
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6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、目安の数字を伝えて終わりではありません。自社の必要額に根拠が付き、置き場所が分かれ、枠の交渉まで進むところまで一緒に動きます。FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 固定支出の洗い出し(無料ヒアリング): 元金返済を含めた毎月の固定支出を1つの数字にする
- 入金の谷の特定: 直近12か月の入金を月別に並べ、最も薄い月と平均の差を出す
- 耐えたい月数の決定: 主要取引先が止まったときの代替期間から、自社の月数を決める
- 置き場所と枠の設計: 現預金・定期・借入枠の配分を決め、必要なら枠の相談時期を組む
厚く持つかどうかより、根拠を持って決めているかどうかです。