8月の倒産830件、負債総額は26.5%増
── 焦げ付きに備える与信の実務
もっと注目したいのは負債総額のほうです。1,447億2,800万円で、前年同月比26.5%増。6か月連続で前年を上回っています。
件数の伸びより、一件あたりが大きくなっている。取引先が倒れる確率が上がるということは、自社の売掛金が焦げ付く確率も上がるということです。そして与信は、取引が始まる前にしかかけられません。
1. 件数より、一件あたりの大きさを見る
件数が3.1%増に対して、負債総額は26.5%増。この開きが意味しているのは、規模の大きい倒産が増えているということです。
中小企業の現場では、取引先が大きいほど安心という感覚が根強くあります。長年続いている会社、名前の通った会社、上場企業の関連会社。ところが負債総額の伸びは、その感覚が当てにならない局面が来ていることを示しています。
そして、中小企業にとっての本当のリスクは、取引先の倒産そのものではありません。一社への依存です。売上の3割を占める先が飛べば、売掛金の焦げ付きに加えて、翌月からの売上がまるごと消えます。回収の問題と、事業の問題が同時に来る。ここが最も危ない形です。
2. 与信の基本は、相手を審査することではない
与信管理と聞くと、相手の財務内容を調べることだと思われがちです。ところが中小企業に、取引先の内情を十分に調べる手段はほとんどありません。決算書を出してもらえる相手も限られます。
だから、順番を変えます。相手を審査するのではなく、自社が許容できる上限を先に決めます。これなら相手の情報がなくてもできます。
この置き方の利点は、断る理由が自社の側にあることです。『御社の信用に問題があるので』とは言えませんが、『当社の社内基準で、この金額を超える残高は持てないことになっています』なら言えます。基準として文書にしておけば、担当者でも断れます。
3. 上限額の決め方 ── 三つの数字から
難しい計算は要りません。次の三つを並べます。
- ①自社の月間固定支出: その額を一度に失っても、手元資金で何か月持つか。焦げ付きの影響は、金額ではなく持ちこたえる月数で測ります
- ②粗利率: 売掛金100万円が飛んだとき、粗利率30%なら取り返すのに約330万円の売上が必要です。失う金額と、取り返す労力は同じではありません
- ③その先の売上構成比: 一社で売上の何%か。20%を超えたら、金額の大小に関わらずそれ自体がリスクです。与信より前に、構成の問題として扱います
運用は単純にします。新規の取引先は小さい上限から始め、支払いの実績が積み上がったら段階的に上げる。実績のない相手に大きな枠を与えないという、それだけのことです。そして一度上げた枠も、支払いが一度でも遅れたら戻す。ここを決めておかないと、枠は上がる一方になります。
4. 兆候は、決算書より先に現れる
決算書が手に入る頃には、たいてい手遅れです。実際に先に現れるのは、日々の取引の中の変化です。
- 支払いが遅れる: 一度でも。理由が説明されても、記録に残します
- 支払方法を変えたいと言ってくる: 手形の期間延長、分割、締め日の変更
- 担当者が頻繁に変わる、連絡がつきにくくなる: 社内が動揺しているときの典型です
- 急に発注量が増える: 他社が取引を絞った分が回ってきている可能性があります。嬉しい話として受けない
- 現場の空気が変わる: 人が減った、整理整頓が乱れた、設備が直されていない
最後の二つは、現場に出ている自社の社員にしか気づけません。だから、気づいたことを上げる経路を先に作っておく必要があります。『取引先の様子が変だと思ったら誰に言うか』を決めておくだけで構いません。多くの会社で、この情報は現場の雑談で止まっています。
5. 焦げついたときのために、先に持っておくもの
回収の場面で効くのは、取引が正常だったときに揃えた書類です。注文書、納品書、検収書、そして取引基本契約書。請求の根拠になるものが揃っているかどうかで、その後の選択肢が変わります。
契約書については、一度だけ確認しておきたい点があります。期限の利益喪失の条項があるか。納品物の所有権がいつ移る取り決めになっているか。この二つは、平時には一度も使いませんが、必要になったときには内容を変えられません。
取引信用保険やファクタリングといった手段もあります。いずれもコストと引き換えなので、依存度の高い取引先が一社ある場合に絞って検討するのが現実的です。
そして、実際に回収の局面に入ったら、自社で判断しないでください。法的手続きは弁護士、貸倒引当金や貸倒損失の会計・税務上の取扱いは顧問税理士に確認する。ここを自己流でやると、取れるものも取れなくなります。
一番大きい取引先が飛んだら、何か月持ちますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。取引先ごとの与信限度額を一緒に決めます。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、9社の中小企業を自分たちで経営しています。取引先が飛んで売掛金が消えた経験も、他社が絞った分の発注が急に回ってきた経験もあります。FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 売上構成比の一覧化(無料ヒアリング): 取引先別の売上構成を並べ、依存度の高い先を特定する
- 与信限度額の設定: 固定支出・粗利率・構成比の三つから、取引先ごとの上限を決める
- 兆候の共有経路づくり: 現場が気づいたことを、誰にどう上げるかを決める
- 契約書類の点検: 注文書から検収書まで揃っているか、契約の条項を確認する
与信は、疑うための作業ではありません。長く付き合うために、耐えられる線を先に決めておく作業です。線があるから、多少のことでは関係を切らずに済みます。