自己資本を厚くする順番
── 利益以外の方法も数える(想定事例)
社長の頭に浮かんだのは一つだけでした。利益を出すこと。
ところが比率は、分子と分母の両方で動きます。以下は想定事例です。
1. 【before】上げる方法が、一つしか浮かばなかった
従業員24名の設備工事業。自己資本比率は18%でした。業種の平均と比べて低い、と言われています。
社長の受け取り方は、こうでした。利益を積み上げるしかない。つまり何年もかかる。
その理解は半分正しいです。利益の蓄積は確実に効きます。ただそれ以外の経路が見えていなかったので、打ち手が一つに見えていました。
一つしかないと思うと、順番を決める話になりません。やるかやらないかの話になります。
2. 分子を増やすか、分母を減らすか
自己資本比率は、自己資本を総資産で割ったものです。式を見ると、動かせる場所が二つあります。
分子を増やす: 利益を残す、資本を足す。
分母を減らす: 使っていない資産を外す、借入を返す。
この会社の場合、総資産のなかに三年動いていない車両と、回収が止まっている売掛金がありました。どちらも分母に乗っています。
なお、比率の算定方法は目的や金融機関によって違う場合があります。何を自己資本に含めるかの扱いも一様ではありません。自社の数字を動かす前に、どの定義で見られているかを聞くほうが先です。
3. 【turn】三つを並べて、順番を決めた
並べたのは三つです。利益、資本の追加、資産の整理。それぞれ効く速さが違います。
- 利益を残す: 効くのは決算を越えてから。確実だが遅い。配当や役員報酬の出し方も影響する
- 資本を足す: 効くのは手続が終わった時点。速いが、お金以外の条件が付いてくる
- 資産を整理する: 効くのは売却や除却の処理をした期。中くらいの速さで、現金も入る
この会社が最初に動かしたのは三番目でした。理由は二つ。手続が社内で完結することと、現金が入ることです。
車両を処分し、回収が止まっていた売掛金を一件整理しました。総資産が減り、比率は18%から21%に動きました。利益を待たずに3ポイントです。
そのうえで、利益の蓄積を本線に置きました。資本の追加は三番目に残しました。いちばん速いものを、いちばん後ろに置いたことになります。理由は次の節です。
4. 資本を足す方法に付いてくる条件
資本を足す経路には、いくつか形があります。社長が自分で出す、第三者から出してもらう、資本に近い扱いの借入を使う。
速さだけで見れば、これが一番です。ただしお金以外の条件が付いてきます。
第三者から出してもらう場合、持分が動きます。議決権が動くということは、意思決定の形が変わるということです。金額の話として検討すると、ここを見落とします。
社長の個人資金を入れる場合は持分の問題は小さいですが、個人と会社の資金の境目が、さらに曖昧になります。すでに役員借入金がある会社では、整理の順番を先に決めておく必要があります。
資本に近い扱いの借入は、要件が細かく定められています。使えるかどうかは、取引金融機関に確かめるところからです。
いずれの手続も、会計処理と税務上の取扱いに関係法令および会計基準にもとづく定めがあり、顧問税理士および会計事務所への確認が前提です。この会社が三番目に置いたのは、確認に時間がかかると見たからでした。
5. 比率が上がっても、良くなっていない場合
比率は、良くないやり方でも上がります。ここを押さえておかないと、数字だけ追うことになります。
仕入を絞って在庫を減らす。総資産は減り、比率は上がります。ところが納期が守れなくなれば、商売は細ります。
設備の更新を止める。同じく分母が減ります。数年後に一度に来ます。
つまり分母を減らす打ち手には、商売を縮める方向のものが混ざっている。見分ける基準は一つです。
減らした資産が、売上を作っていたかどうか。動いていない車両は作っていません。在庫は作っています。ここで線が引けます。
この会社は、整理の対象を三年以上動いていないものに限りました。基準を一つ決めると、どこまでやるかで迷わなくなります。
自己資本比率を上げる方法を、いくつ並べて比べましたか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。いまの比率と、動かせる経路を一緒に洗い出します。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、外から助言するコンサルではなく、複数の中小企業を自分たちで経営している集まりです。自己資本の薄い会社を引き受けたことも、厚くしてきた過程も社内にあります。
何度も見てきたのは、上げる方法を一つしか並べていない状態です。利益を出すしかない、と思っている。そこで話が止まります。
並べると変わるのは、順番を決める話になることです。どれをやるかではなく、どれを先にやるか。やらないという選択肢が消えます。
FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- いまの比率と、見られている定義を確かめる(無料ヒアリング): 金融機関がどの数字で見ているかを聞く
- 総資産の中身を、売上を作っているかどうかで分ける: 作っていない資産に印を付ける
- 三つの経路を並べて、効く速さと確認に要る時間を書く: 速い順ではなく、着手できる順に並べる
- 先頭の一つだけを決めて動かす: 同時に三つ動かすと、どれが効いたかわからなくなる
いちばん抵抗が出るのは、社長個人の資金を会社に入れる話です。すでに入れている会社が多く、さらに入れる話になると感情が動きます。ここは金額の話をする前に、個人と会社の境目をどう整理するかを別の議題として立てるほうが進みました。
なお、増資の手続、役員借入金の処理、資本に近い扱いの借入の要件については顧問税理士および取引金融機関に必ずご確認ください。私たちが一緒にやるのは、その前段にある、経路を並べて順番を決める作業です。