売る気がなくても、会社の値段は知っておく
── 値段が付く会社の条件
ところが、会社の値段は、売るときだけの話ではありません。借入の条件、承継の選択肢、万一のときに残された人が取れる手段。すべてこの一点に効いてきます。
そして重要なのは、金額そのものではありません。値段が付く会社かどうかです。値段が付かない会社は、売れないだけでなく、継げません。
1. 値段を知らないことの、三つの代償
一つ目。承継の選択肢が見えません。親族に継がせるにしても、株式の評価がどのくらいの水準かを知らなければ、相続や贈与の設計が始まりません。金額の桁が分からないまま、何年も先送りになっている会社は珍しくありません。
二つ目。借入の交渉で、自社の立ち位置が分かりません。純資産と利益の推移は、そのまま金融機関の見方です。相手が見ている数字を自分が見ていない状態で交渉していることになります。
三つ目。万一のとき、残された人が判断できません。社長に何かあったとき、家族も社員も会社の価値を知りません。売るか、畳むか、継ぐかを、情報がないまま決めることになります。これがいちばん重い代償です。
2. 中小企業の値段の、基本的な見方
実務でよく使われるのは、大きく二つの考え方の組み合わせです。
一つは、純資産をもとにする見方。貸借対照表の純資産を基礎に、資産の時価と簿価のずれを調整します。土地、保険の解約返戻金、回収できない売掛金、価値のない在庫。簿価のままでは実態を表さない項目を、実際の価値に置き直します。
もう一つは、利益をもとにする見方。営業利益や経常利益に、役員報酬や保険料のうちオーナー固有の部分を足し戻した実質的な利益を出し、そこに一定の年数を掛けます。
注意したいのは、税務上の株価算定と、M&Aの取引価格は考え方が違うことです。相続や贈与の評価には別の定めがあり、実際の売買価格は交渉で決まります。ここで出すのは、あくまで自社の桁を知るための枠組みだと割り切ってください。
3. 値段が付かない会社の、共通点
金額の計算より先に見るべきは、こちらです。
- 社長がいないと回らない: 判断も、技術も、人間関係も社長に集中している
- 売上の大半が一社に依存している: その一社が離れれば、会社の形が変わる
- 決算書に社長個人のものが混ざっている: 貸付金、個人名義の不動産、私的な費用
- 許認可や主要な契約が、社長個人に紐づいている: 引き継げるかどうかが不確実になる
- 数字が月次で出ていない: 現状を説明できない会社は、評価のしようがない
重要なのは、この五つがすべて、継ぐ側から見たリスクでもあるということです。買い手が嫌がる会社は、息子や幹部にとっても継ぎにくい会社です。だから、売る売らないに関係なく直す価値があります。
4. 値段を上げる打ち手は、地味なものばかり
やることは、前節の裏返しです。そしてどれも、派手さがありません。
社長の仕事を三つに分け、そのうち二つを他人に移す。一社への売上依存に上限を決める。個人資産と会社を分離する——貸付金を整理し、不動産や保険の名義を確認する。契約と許認可の名義を会社にする。月次決算を翌月15日までに出す。
並べてみると、全部が同じ方向を向いています。社長がいなくても回る。値段が付く会社とは、社長がいなくても続く会社のことです。
そしてこれらは、売却を考えていない会社にとってもそのまま経営改善です。企業価値を上げる作業と、会社を強くする作業は、中小企業においてはほとんど同じものになります。
5. いま出せる概算の出し方
直近3期の決算書があれば、30分で桁は分かります。
手順は三つです。①純資産の額を確認する。②役員報酬と保険料のうち、オーナー固有と言える部分を利益に足し戻す。③3期分の平均を出す。そのうえで、前掲の枠組みに当てはめます。
出てくる数字は正確ではありません。それでも、桁が分かります。桁が分かれば、承継の話も、借入の話も、家族との話も、具体的になります。ゼロと一の差は、精度の差よりはるかに大きい。
そして、毎年更新してください。決算が出たタイミングで一緒に更新する習慣にすると、経営判断の基準が一つ増えます。去年より上がったのか下がったのか。その理由は何か。売上や利益とは別の角度から、会社の状態が見えるようになります。
いまの会社、どのくらいの値段が付きますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。直近3期から概算の枠組みを一緒に出します。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、9社の中小企業を自分たちで経営しています。引き取る側にも、引き渡す側にも立った経験があります。FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 直近3期から概算を出す(無料ヒアリング): 時価純資産と実質利益を出し、まず桁を把握する
- 値段が付かない要因の洗い出し: 属人化・一社依存・個人資産との混在を具体的に特定する
- 分離と移管の順番決め: どれから手を付けるか、期限つきで並べる
- 月次決算の早期化: 説明できる数字が出る状態を作る
なお、具体的な株価算定や税務上の取扱いは、必ず顧問税理士に確認してください。私たちが一緒にやるのは、その手前の整理です。値段が付く会社にしておくこと自体が、売らない会社にとっても最良の備えになります。