企業価値担保権が動き出した
── 経営者保証を外すために、いま揃える条件
目的ははっきりしています。不動産担保や経営者保証によらず、事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくすること。この法律で新たに創設されたのが企業価値担保権で、将来のキャッシュフローを含む事業全体の価値を担保として扱います。そして重要なのは、企業価値担保権が設定されている場合には経営者保証の利用が制限されるという点です。
制度は明確に、保証を外す方向へ動いています。ただし制度が変わったことと、自社の保証が外れることは別の話です。ここに実務の距離があります。
1. 制度は動いた ── 事業性融資推進法と企業価値担保権
これまで中小企業の融資は、不動産担保と経営者保証という二つの支えに依存してきました。土地を持たない事業者や、これから伸びる事業ほど、この枠組みでは評価されにくい。事業性融資推進法は、そこに新しい選択肢を加えるものです。
企業価値担保権は、個別の資産ではなく、将来キャッシュフローを含む事業全体の価値を担保として扱います。信託会社等が担保権者となる仕組みで、貸し手側は銀行に限られません。そして企業価値担保権が設定されている場合には、経営者保証の利用が制限されます。制度の設計思想として、事業を評価するなら、経営者個人に背負わせる必要はないという考え方が明確に置かれています。
2. それでも、明日から外れるわけではない理由
ここを冷静に見ておく必要があります。新しい制度が使えるようになったことと、いま借りている自社の保証が外れることは、まったく別の話です。
理由は単純で、既存の借入には既存の契約があるからです。制度の変更は、すでに結んだ保証契約を自動的に解除しません。外すには、金融機関との個別の話し合いが必要になります。そして金融機関が判断する材料は、新制度ができた後も基本的には変わっていません。この会社は、経営者個人の保証がなくても大丈夫か。この一点です。
つまり実務として意味があるのは、制度を待つことではなく、外れる条件を自社側で満たしにいくことです。追い風は吹いています。追い風の中で、こちらが帆を張っているかどうかが問われます。
3. ガイドラインが見ているのは、3つの状態
判断の物差しになるのが、2013年12月に策定され2014年2月から適用されている経営者保証に関するガイドラインです。求めているのは、次の3つの状態です。
注意点として、ガイドラインは法的拘束力を持つものではありません。満たせば必ず外れると約束されたものではなく、あくまで判断の共通言語です。ただし逆に言えば、金融機関が何を見ているかが公開されているということでもあります。見られる項目が分かっているのだから、そこを整えるのが最短です。
4. 想定事例: 同じ黒字で、外せた会社と外せなかった会社
※ 以下は、実際に起こりやすい状況をもとに構成した想定事例です。
年商3億円前後・借入6,000万円・直近3期黒字。決算書だけ見ればほぼ同じ2社
C社の社長に悪意はありません。中小企業では会社と個人が混ざるのが自然で、長年それで回ってきた。ただ、混ざっている限り『経営者個人が保証しなくても大丈夫』とは言えないのです。
5. turn: 外す交渉ではなく、外れる状態を作る
やることは、3項目をそれぞれ具体的な作業に落とすだけです。
- ①社長貸付・借入を精算する: 決算書に社長への貸付金や仮払金が残っていれば最優先。ここが残っている限り、区分・分離は説明できません
- ②個人資産の使用を契約書にする: 社長個人の不動産や車を会社が使っているなら、相場に沿った契約を交わす。無償や不明朗な金額は、混在の証拠として見られます
- ③自己資本を厚くする道筋を示す: 一朝一夕には積めないので、役員報酬を抑えて内部留保を積む計画を数字で見せる。現在の水準より、方向と計画が見られます
- ④開示を年1回から四半期へ: 試算表と資金繰り表を四半期ごとに届ける。3項目のうち、いちばん早く着手できて、いちばん効くのがここです
私たちBEYONDは、9社の中小企業を自分たちで経営しています。経営者保証の重さも、それを外したいという気持ちも、自分の会社の話として引き受けている当事者です。その実感として言えるのは、保証は交渉で外すものではなく、外れる状態になったときに外れるということ。
そしてこの3項目を整えることの本当の価値は、保証が外れることではありません。会社と個人が分離され、財務基盤が厚く、数字が四半期ごとに見えている会社は、そもそも事業として強い。承継のときも、M&Aのときも、金利交渉のときも、同じ状態が効きます。保証の解除は、その副産物として付いてきます。
制度は2026年5月に一歩進みました。追い風が吹いているうちに、帆を張っておく。それが今期やるべきことです。
いま保証を外す相談をしたら、何と言われそうですか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。保証を外すために足りていない条件を一緒に確認します。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、制度を解説して終わりではありません。実際に決算書から混在が消え、開示が習慣として回り、金融機関と保証の話ができる状態になるところまで一緒に動きます。FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 現状の棚卸し(無料ヒアリング): 決算書から社長貸付・仮払金・個人資産の使用状況を洗い出し、ガイドラインの3項目で自己点検する
- 分離の実行計画: 精算の順番と時期、契約書の整備、顧問税理士と確認すべき論点を整理する
- 財務基盤の道筋づくり: 自己資本比率の目標と、そこに至る利益計画・役員報酬の方針を数字にする
- 開示の運用化: 四半期ごとに出す資料の型を決め、届ける時期をカレンダーに固定する
制度は変わりました。あとは、自社の状態を制度に追いつかせるだけです。