決算書の『社長への貸付金』は、
いくらから信用を削るのか
多くの社長は、こう考えています。資産に載っているのだから、マイナスではない。帳簿の上ではそのとおりです。ところが金融機関がこの会社を評価するときには、その金額が資産として数えられないことが少なくありません。資産から外れれば、自己資本はその分だけ目減りします。
つまり決算書の見た目より、実質的な財務体質は弱く判定されている可能性がある。しかも影響は融資だけにとどまりません。
1. なぜ資産に載っているのに、資産として見てもらえないのか
金融機関は、決算書をそのまま受け取りません。実態に近い姿へ引き直してから評価します。このとき基準になるのは、その資産が本当に現金化できるかという一点です。
社長への貸付金は、この基準で見ると分が悪い。返済の期限も、返済の原資も、決まっていないことが多いからです。取引先への売掛金なら期日があり、回収できなければ督促できる。ところが社長への貸付金は、督促する相手が会社の代表者本人です。回収を強制する仕組みが会社の中に存在しない。だから評価の場面では、資産から外して考えられやすくなります。
外れた分は、そのまま自己資本から引かれます。自己資本比率も、実質的な純資産も下がる。決算書上は黒字で自己資本もあるはずなのに、融資の話になると反応が鈍い。その原因がここにあることは、実務では珍しくありません。
2. 融資・税務・相続、三つの面で重さがある
影響は融資の場面だけではありません。
税務の面。法人が役員に金銭を貸し付けている場合、無利息または通常より低い利率であれば、原則としてその差額が役員に対する経済的利益として給与課税の対象になります。災害や疾病等でやむを得ない場合や少額の場合など、課税しない取扱いが定められた例外もありますが、放置していれば毎期この論点が付いて回ることに変わりはありません。適用の判断は個別事情によるため、必ず顧問税理士に確認してください。
相続の面。社長に相続が発生すると、会社から社長への貸付金は返済義務として相続人に引き継がれます。会社側から見れば債権が残ったままで、相続人側から見れば突然の債務です。承継の場面でこれが表面化すると、話は一気に難しくなります。本人が元気なうちにしか、きれいに片付けられません。
そして返すのが重い。会社への返済原資は、多くの場合、役員報酬です。所得税と社会保険料を負担した後の手取りから返すことになるため、額面よりずっと大きな金額を稼がないと減りません。だからこそ、早く着手した会社ほど楽に終わります。
3. 想定事例: 同じ利益なのに、借換えで差がついた2社
※ 以下は、実際に起こりやすい状況をもとに構成した想定事例です。
年商2億円台・直近3期黒字・自己資本3,000万円。決算書の利益はほぼ同じ2社
E社の社長に不正はありません。領収書を切りそびれた経費、急な立替、個人の支払いを一時的に会社から。一つひとつは小さく、そのつど精算するつもりだった。それが10年積み上がっただけです。
4. 金額の大小より、増え続けているかどうか
ここが実務上いちばん重要な点です。見られているのは残高の大きさより、その残高が減る方向にあるか、増える方向にあるかです。
1,000万円あっても、返済計画があって毎期確実に減っているなら、説明ができます。この会社は問題を認識し、手を打っていると読まれる。逆に300万円でも、毎期じわじわ増えていれば、会社と個人の線引きができていない状態が今も続いていると読まれます。金額ではなく、方向です。
だから最初にやるのは、残高を一気に返すことではありません。増えるのを止めることです。ここが止まれば、残りは時間をかけて減らせます。
5. 今期から着手できる4つ
- ①新規の発生を止める: 経費は法人カードと精算ルールに一本化し、会社の口座から社長個人の支払いを出さない。ここを止めない限り、返済しても残高は減りません
- ②残高の中身を分解する: 過去の未精算経費・生活費の立替・個人資産の購入。性質ごとに分けると、経費として処理できる部分と、純粋な貸付として返す部分が分かれます。顧問税理士と一緒にやる作業です
- ③返済計画を書面にする: 役員報酬の一部から毎月定額を返済し、金額・期間・利率を記載した契約書を作る。書面があるだけで、税務上も融資の説明上も扱いがまったく変わります
- ④個人資産の貸し借りを契約にする: 社長個人の不動産や車を会社が使っているなら、相場に沿った賃貸借契約を交わす。無償や不明朗な金額は、線引きができていない証拠として見られます
私たちBEYONDは、9社の中小企業を自分たちで経営しています。会社と個人が混ざりやすい構造は、悪意ではなく規模から生まれることを、当事者として知っています。社長が個人の財布で会社の急場をしのぎ、会社の口座で個人の急場をしのぐ。中小企業では、それが機能してきた面もあります。
ただし、混ざったままで得られる信用には上限がある。金融機関に説明できない項目が決算書に載っている限り、条件の交渉は前に進みません。そしてこの作業の価値は、融資が通ることではありません。会社と個人が分離された会社は、承継のときも、M&Aのときも、社長に万一があったときも、話が単純です。残高をゼロにすることより、線を引き直すこと自体が資産になります。
まずは今期の決算書を開いて、貸付金と仮払金の残高を見る。前期と比べて増えているか減っているか。それを確かめるところからで十分です。
いまの決算書から、貸付金と仮払金の残高をすぐ言えますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。会社と個人の線引きがどこで曖昧になっているかを一緒に確認します。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、論点を指摘して終わりではありません。実際に決算書から混在が消え、残高が減る方向に転じ、金融機関に説明できる状態になるところまで一緒に動きます。FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 現状の把握(無料ヒアリング): 直近3期の決算書から貸付金・仮払金の推移を追い、増減の方向と発生源を特定する
- 発生源の遮断: 経費精算と支払いの動線を整理し、新規発生が起きない運用に切り替える
- 残高の分解と返済設計: 顧問税理士と論点を整理したうえで、役員報酬の水準と返済額の現実的な組み合わせを数字にする
- 説明できる形への整備: 契約書と返済実績をそろえ、金融機関に出す資料の型を決める
止めるのが先、返すのは後。順番を守れば、思ったより早く終わります。