料率は下がったのに、負担は増える
── 納税・社保・賞与を先に取り分ける
2026年3月分(4月納付分)から、協会けんぽの健康保険料率は全国平均で9.90%になりました。前年度の10.00%からの引き下げです。介護保険料率は1.62%、厚生年金保険料率は18.3%(労使折半)で据え置き。
ところが2026年4月からは、子ども・子育て支援金が医療保険料に上乗せして徴収され始めました。被用者保険の令和8年度の支援金率は0.23%、これも労使折半です。差し引きすると、料率の引き下げ分はほぼ相殺されます。
そして決定的なのはここです。料率が横ばいでも、賃金が上がれば支払う金額は増えます。率ではなく額で効いてくる。納税・社会保険・賞与は、来るかどうか分からない支出ではありません。いつ、いくら出ていくかが確定している支出です。だから、後から工面するのではなく先に取り分けます。
1. 料率の話に隠れる『額』の話 ── 2026年度の実際
料率のニュースは分かりやすいので目に入ります。しかし会社の口座から出ていくのは率ではなく金額です。社会保険料は標準報酬月額 × 料率で決まるので、変数は二つある。片方が下がっても、もう片方が上がれば結果は増えます。
賃上げは、人件費が増えるという形でだけ効いてくるのではありません。社会保険料の会社負担も、同じ比率で連動して増えます。給与を3%上げれば、社会保険料の会社負担もおおむね3%増える。ここまで含めて「賃上げのコスト」です。給与総額だけを見て資金計画を立てると、毎年この分だけ足りなくなります。
2. 確定支出は3つ ── 納税・社保・賞与
資金繰りで会社を苦しめる支出には、共通の特徴があります。金額が大きく、時期が決まっていて、交渉の余地がない。この条件に当てはまるのが次の3つです。
- 納税: 法人税・消費税・源泉所得税・住民税・固定資産税。とくに消費税は、預かっているだけのお金を運転資金として使ってしまいがち
- 社会保険料: 毎月末納付。賞与にもかかる。賃上げに連動して静かに増える
- 賞与: 支給月に一度に出ていく。加えて社会保険料も同時に増える
これらは予測すべき支出ではなく、すでに確定している支出です。にもかかわらず、多くの会社が一つの口座で運転資金と混ぜて管理しています。混ぜた瞬間、通帳の残高は使えるお金に見えてしまう。ここが事故の入口です。
3. 想定事例: 黒字なのに、納付の月だけ毎年苦しい会社
※ 以下は、実際に起こりやすい状況をもとに構成した想定事例です。
年商4億円・従業員25名・毎期黒字。それでも年に3回、資金が薄くなる
決算は黒字。売上も伸びている。それなのに、消費税の納付月・賞与の支給月・決算納税の月になると、毎年きまって資金が細り、そのたびに短期の借入で埋めていました。
この会社は資金が足りなかったのではありません。自社のお金と、預かっているお金・約束済みのお金を、同じ場所に置いていただけです。
4. turn: 別口座に先取りする、4つのルール
やることは単純です。確定支出専用の口座を1つ作り、毎月そこへ移す。それだけで、通帳の残高が意味のある数字に変わります。
- ①金額は前年実績から決める: 昨年1年間に払った納税・社保・賞与の合計を12で割る。そこに賃上げ率を上乗せして今年の月額とする。精緻な予測は要らない
- ②入金があった日に、先に移す: 月末の残りから移すのではなく、売上が入った時点で先に抜く。残りで経営する形にすると、使いすぎが構造的に起きなくなる
- ③引き出す条件を先に決める: この口座から出していいのは納税・社保・賞与の支払いだけ、と決めて紙に書く。例外を作った瞬間に、ただの2つ目の口座になる
- ④賞与は支給月ではなく期首から積む: 支給月だけで工面すると、その月だけ資金が沈む。半期で割って毎月積めば、支給月は移すだけの月になる
とくに効くのが②です。人は目に見えるお金を基準に判断します。先に抜いてしまえば、残高がそのまま『使っていいお金』になる。意志の力ではなく、順番で解決する方法です。
5. 学び: 資金繰りは『予測』より『隔離』が効く
資金繰りというと、精密な予測表を作る話になりがちです。もちろん資金繰り表は必要ですが、予測の精度を上げても、混ざっている限り使ってしまいます。分かっていたのに払えない、という事故はここから起きます。
確定支出の隔離が効くのは、判断そのものを不要にするからです。毎月「これは使っていいのか」と考える必要がなくなる。考えなくてよくなった分だけ、社長の頭は本業の判断に使えます。
私たちBEYONDは、9社の中小企業を自分たちで経営しています。資金繰りの重さも、納付月の憂鬱も、自分の会社の話として引き受けている当事者です。その実感として言えるのは、資金繰りで差がつくのは予測の巧拙ではなく、置き場所を分けているかどうかだということ。分けている会社は、金利が上がっても短期借入に頼らずに済みます。分けていない会社は、黒字のまま毎年利息を払い続けます。
そして料率のニュースに戻ると、伝えたいのは一点です。率が下がったという見出しを、負担が減ったと読み替えない。額で確かめる。確かめた額を、先に別の場所へ移す。やることはこれだけです。
納税と賞与の資金、いまどこに置いていますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。確定支出を差し引いた『本当に使えるお金』がいくらかを一緒に確認します。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、口座を分けましょうと助言して終わりではありません。実際に毎月の移動が習慣として回り、納付月に慌てなくなるところまで一緒に動きます。FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 確定支出の棚卸し(無料ヒアリング): 直近1年の納税・社会保険料・賞与の実績を月別に並べ、年間総額と山が来る月を特定
- 月額の設定: 前年実績に賃上げ分と料率改定分を織り込み、毎月移す金額を決める
- 口座と運用ルールの設計: 専用口座の開設、移すタイミング、引き出し条件を1枚のルールに落とす
- 資金繰り表との接続: 隔離後の『本当に使えるお金』が毎月見えるように、既存の資金繰り表を組み替える
確定している支出は、驚くべきものではありません。驚きに変えているのは、置き場所だけです。