取引銀行が再編される側だったら
── 二行体制の作り方と、二行目の選び方
これは金融機関側の話に見えます。しかし取引先が一行しかない会社にとって、その一行の方針が変わることは、調達の前提が変わることと同じです。
平時は効率的で、有事に弱い。それが一行集中です。
1. 再編は金融機関の話ではなく、調達の前提の話
制度の整備は、特定の金融機関の再編を予定するものではありません。それでも中小企業の側で確認しておくべきことがあります。自社の資金調達が、どれだけ一つの相手に乗っているかです。
統合や方針の見直しが起きたとき、借入がなくなるわけではありません。変わるのは審査の基準、担当者、そして意思決定までの距離です。長年の関係で通っていた話が、新しい基準では通らないことがあります。
このとき、二行目があるかどうかで選択肢がまったく違います。一行しかなければ、条件を比べることも、別の相手に持ち込むこともできません。
2. 一行集中で、実際に何が起きるか
困るのは、借りられなくなる瞬間ではありません。その手前で、交渉ができなくなることです。
- 比較する材料: 提示された金利や期間が妥当かを確かめる相手がいない
- 情報の複線: 業界動向も制度情報も、一つの窓口からしか入らない
- 有事の逃げ道: 方針変更や担当交代が、そのまま自社の条件変更になる
- 交渉の姿勢: 他に行き先がないことは、相手にも伝わっている
四つ目を軽視しないでください。比べられる状態そのものが条件を作ります。実際に借り換えるかどうかは関係ありません。
3. 二行目を選ぶ、四つの基準
二行目は、メイン行と同じ型を選んでも意味が薄い。違う性格の相手を選ぶのが原則です。
①業態を変える。地方銀行がメインなら信用金庫や信用組合、あるいは政府系。審査の見方も、得意な規模も違います。同じ業態の二行目は、同じ理由で同じ判断をすることがあります。
②自社の所在地と事業所を見てくれる。支店が近いかどうかは、担当者が現場を見に来られるかどうかに直結します。見に来られない相手は、決算書だけで判断することになります。
③保証付きと保証なしの両方に対応できる。信用保証協会の保証付き融資しか扱わない関係だと、枠を使い切った時点で止まります。
④担当者が変わっても記録が残る。中小企業との取引で、担当者の異動は必ず起きます。会社として自社を見ているか、担当者個人が見ているかは、二回目の面談で分かります。
4. シェアをどう配分するか
二行にすると決めても、半々にする必要はありません。むしろ半々は避けたほうがよい。
理由は二つあります。どちらもメインだと思わないこと。そして有事にどちらが先に動くかが決まらないこと。中小企業の規模では、責任を持って相談に乗る相手が一つはっきりしているほうが動きます。
重要なのは金額の比率ではなく、二行目との間に実績が積み上がっているかです。借入が少額でも、毎期決算書を持って行き、約定どおり返している履歴があれば、必要なときに話ができます。逆に、口座があるだけの関係は取引実績にはなりません。
始め方としては、次の設備投資や運転資金の一部を二行目から調達するのが自然です。借り換えから入ると、メイン行に対する説明が難しくなります。
5. メイン行との関係を壊さない伝え方
ここを心配して二行目に踏み出せない会社が多い。実際には、黙って進めるほうがこじれます。
伝える順番は三つです。①先に言う。実行後に知られるのが最も印象が悪い。②理由を自社の都合で説明する。『条件を比べたい』ではなく、『調達先を分散しておきたい』『災害や有事に備えたい』。相手の条件への不満として伝えないことです。
③メイン行としての位置づけは変えないと明言する。実際に変えないのであれば、そう言えば済みます。多くの金融機関にとって、分散自体は珍しい話ではありません。
そして忘れてはならないのが、二行体制には手間が増えるという事実です。決算説明は二回、資料も二部、面談も二回。この手間を払う覚悟がないなら、二行目は形だけになります。形だけの二行目は、有事に機能しません。
手間を減らすには、説明資料を同じ形に揃えておくことです。試算表、資金繰り表、近況メモ。同じ三枚を二か所に持っていくなら、追加の負担は面談の時間だけで済みます。
いま、借入は何行から受けていますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。直近3期の借入明細を並べて、シェアの偏りと次の一手を一緒に整理します。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、複数の中小企業を自分たちで経営している集まりです。一行でやってきた会社も、最初から分散していた会社もあります。差が出るのは平時ではなく、条件が動いた局面でした。
FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 借入明細を一枚に並べる(無料ヒアリング): 行別の残高・金利・期間・保証の有無を可視化し、偏りを数字で見る
- 二行目の候補を業態から選ぶ: 所在地と事業所の位置、得意な規模、保証の扱いを確認する
- 入口となる案件を決める: 借り換えではなく、次の資金需要の一部から始める
- 説明資料を一つの型に揃える: 二か所に持っていく手間を、作る手間として増やさない
なお、取引方針の変更や具体的な借入条件については、顧問税理士および取引金融機関にご相談のうえ判断してください。私たちが一緒にやるのは、その手前の整理と順番づけです。二行目は、必要になってから作れるものではありません。