役員報酬は、利益が見えてから決められない
── 期首3か月という一度きりの窓
ところが法人税法上、定期同額給与の通常改定は、事業年度開始の日から3か月以内に行う必要があります。3月決算なら6月末まで。それを過ぎて増額すると、上乗せされた部分は損金に算入されないと判断される場合があります。
つまり、利益が見えてから決めるという選択肢は、制度上ほとんど残されていません。決める順番は逆で、報酬を先に置いて、そこから利益計画を組むことになります。
1. 3か月ルールが実際に意味していること
役員報酬を毎月同額で支給し、その全額を損金にする形が定期同額給与です。この金額を変える通常改定は、事業年度開始の日から3か月以内に行う必要があります。
期限内の改定であれば、改定前と改定後のそれぞれが定期同額給与として扱われます。ところが期限を過ぎてから増額した場合、その上乗せ部分が定期同額の枠から外れ、損金に算入されないと判断される場合があります。
この制度が実質的に求めているのは、今年の見通しに対する意思表示を、期首の段階で出しておくことです。予測が外れたときに、後から取り返す設計になっていません。
だから中小企業の社長にとって、期首の3か月は、年に一度しか開かない窓です。ここを『まだ早い』と流すと、一年分の選択肢がその時点で閉じます。
2. 『後で下げればいい』も、原則できない
多めに設定しておいて、苦しくなったら下げればいい——これも通りません。減額もまた、通常改定の期限を過ぎれば自由にはできません。
期中の改定が認められる類型として、役員の職制上の地位の変更などによる臨時改定事由と、経営状況の著しい悪化などによる業績悪化改定事由があります。ただし業績悪化改定事由は『単に思ったより儲からなかった』では該当しません。要件があり、判断には根拠が求められます。
つまり、上にも下にも動かせない。この非対称ではない硬さが、期首の判断の重さを決めています。高すぎれば会社が苦しくなり、低すぎれば社長が会社から借りることになる。どちらも一年間続きます。
3. 順番を逆にする ── 報酬が前提、利益が結果
多くの会社が頭の中で組んでいる順番はこうです。売上を見込む → 経費を積む → 残った利益から報酬を決める。
この順番は、期首には使えません。利益がまだ分からないからです。だから毎年『去年と同じで』になり、業績が変わっても報酬だけが据え置かれ続けます。
実務で成り立つ順番は逆です。報酬を先に置く → その報酬と社会保険料を織り込んだ固定費を出す → その固定費を賄うのに必要な粗利と売上を出す → それを今年の目標にする。
報酬は結果ではなく前提として扱う。この置き方にすると、目標の意味が変わります。社長の生活費と会社の売上目標が、一本の線でつながります。『なぜこの売上を目指すのか』に、初めて具体的な答えが入る。
4. 三つの数字で、幅を挟む
金額そのものを一発で当てる必要はありません。上と下から挟んで、幅の中から選びます。
- ①生活に必要な手取り(下限): 家計から逆算します。ここを下回る報酬にすると、必ず会社から借りることになります。社長への貸付金が積み上がる原因の多くは、報酬の設定が低すぎることです
- ②法人と個人の合計負担が軽い帯: 報酬を上げれば法人の所得は減りますが、個人の所得税・住民税・社会保険料が増えます。最適な帯は業績と家族構成で変わるので、自社の数字で税理士に試算してもらってください。一般論の目安で決める場所ではありません
- ③会社に残す額(上限): 借入の元金返済、設備の更新、必要な手元資金。報酬を上げるほど、この余力が削れます。返済カレンダーを見ながら決めます
①と③で挟んだ幅の中から、②を見て決める。幅が出ない場合、つまり生活に必要な額と会社に残すべき額が両立しない場合は、報酬の問題ではなく事業構造の問題です。そこを報酬で調整しても、翌年また同じ場所に戻ります。
5. 期中に動かせる例外を、当てにしない
臨時改定事由や業績悪化改定事由に該当すれば、期中の改定も認められます。また、賞与のような形で支給する事前確定届出給与という別の枠組みもあり、こちらは届出の期限があります。
大事なのは、これらを当てにして期首の判断を甘くしないことです。要件の判断は個別性が高く、該当するかどうかは後から決まります。該当しなかった場合の負担は、そのまま自社に残ります。
実務としては、こう考えるのが安全です。期首に決めた額で一年間走れるかを確認し、走れない可能性があるなら、その分だけ低く置く。足りない分は、翌期の期首に上げればいい。上げ損なった一年は取り戻せますが、下げ損なった一年は現金が出ていきます。
来期の役員報酬、いつまでに決めるか把握していますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。決算月から逆算した判断のカレンダーを一緒に作ります。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、9社の中小企業を自分たちで経営しています。役員報酬の置き方で失敗したことも、後から動かせないと知って青くなったこともあります。FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 期限をカレンダーに置く: 決算月から通常改定の期限を出し、そこから逆算して検討を始める月を決める
- 生活側の下限を出す: 家計から必要な手取りを出し、税・社保を織り込んだ報酬額に直す
- 会社側の上限を出す: 返済カレンダーと設備更新の予定から、会社に残さなければならない額を確定する
- 税理士と幅の中を詰める: 合計負担の試算を複数の額で回し、幅の中から一つに決める
役員報酬は、社長の取り分を決める作業ではありません。会社の目標をどこに置くかを決める作業です。だから期首にやる価値があります。