一つの豪雨で火災保険から約390億円
── 保険を目的別に並べ直す
保険は、実際に使われています。
問題はかけているかどうかではなく、かけている先が合っているかです。
1. 使われている保険と、使われない保険
公表された数値は特定の災害に係るものであり、年度全体の支払額ではありません。それでも読み取れることがあります。一つの豪雨で、火災保険から一万件を超える支払いが発生している。
ここで考えるべきは二つです。その一万件のなかに自社が入る可能性があったか。そして入っていたとして、補償が足りていたか。
多くの中小企業で、保険は入っているかどうかまでは把握されています。ところが何がどこまで補償されるかを社長が説明できる会社は少ない。証券は金庫にあり、更新の案内は経理が処理し、内容は代理店の担当者しか知らない。
この状態の問題は、保険料を払いすぎていることではありません。いちばん痛いリスクに何もかかっていないことに、起きるまで気づけないことです。
2. 契約は増えるが、誰も全体を見ていない
中小企業の保険が散らかる理由は、三つあります。
- 取引や許認可の条件で加入した: 工事の受注条件、リース契約、賃貸借契約に付随するもの
- 付き合いで加入した: 金融機関や取引先の紹介で入り、内容の検討が後回しになったもの
- 節税や退職金の準備として加入した: 保障が目的ではなく、資金の置き場所として入ったもの
どれも当時は理由がありました。問題は、入った理由が引き継がれていないことです。担当者が代わり、事業の内容が変わり、設備も増えた。それでも証券は当時のまま残っています。
3. 目的別に並べる、五つの区分
棚卸しの作業自体は単純です。証券を全部集めて、目的で分ける。保険商品の名前で分けてはいけません。名前が違っても目的が同じものがあるからです。
区分は五つで足ります。
①資産が壊れたときの補償。建物、設備、在庫、車両。
②事業が止まったときの補償。復旧までの期間の固定費や利益に関わるもの。ここがいちばん空白になりやすい。
③他人に損害を与えたときの補償。製品、施工、施設、業務に関わる賠償。
④人に関する補償。従業員の労災の上乗せ、役員の保障、退職金の準備。
⑤取引先が払えなくなったときの備え。売掛の回収に関わるもの。
それぞれに、契約名・保険料・補償の上限・免責の条件・更新日を並べます。A4一枚に収まらなければ、それ自体が散らかっている証拠です。
4. 重複と空白は、同時に見つかる
並べると、たいてい同じことが起きます。
①が厚く、②が空いている。建物と設備には十分な補償がついているのに、復旧までの数か月をどう食いつなぐかの備えがない。設備は保険で直せても、その間の固定費と人件費は出ていきます。
そして①の中で重複が見つかります。リース契約に付いていた補償と、自社でかけた火災保険が同じ設備を対象にしている。どちらか一方しか支払われない場合もあります。
④では逆のことが起きがちです。目的が保障ではなく資金の置き場所になっている契約が混ざっている。これは悪いことではありませんが、保障として数えてはいけません。並べるときに区別が要ります。
⑤は、そもそも検討されていないことが多い区分です。取引先が一社に集中している会社では、設備の火災より売掛の回収不能のほうが確率が高いことがあります。
5. 見直しの順番と、やってはいけないこと
一覧ができたら、動かす順番があります。
①空白を埋めるほうを先に検討する。保険料を下げる話から入ると、必要な補償まで削ることになります。
②重複は、解約より契約内容の確認から。重複しているように見えて、支払われる場面が違うことがあります。ここは自己判断せず、代理店に確認する。
③更新日をカレンダーに載せる。見直せるのは更新のタイミングです。散らばった更新日を一覧にすると、いつ何を検討できるかが分かります。
やってはいけないのはいま入っている契約を、内容を確認せずに解約することです。とくに④に該当する契約は、解約の時期によって受け取れる金額や税務上の取扱いが変わります。補償内容・支払条件・税務の扱いは契約ごとに違うので、保険代理店と顧問税理士への確認が前提です。
そしてこの一覧は、社長と経理の二人が持ちます。代理店だけが全体を知っている状態が、いちばん危ない。
いま何本の保険に入っているか、即答できますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。保険証券を並べて、目的別の一覧を一緒に作ります。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、複数の中小企業を自分たちで経営している集まりです。保険の棚卸しは各社でやりました。出てきたのは、払いすぎより空白のほうでした。とくに②の事業が止まったときの備えが、どの会社でも薄かった。
FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 証券を全部集める(無料ヒアリング): 金庫、経理のファイル、リース契約書の付帯条項まで
- 五つの区分に並べ直す: 商品名ではなく目的で分け、A4一枚にまとめる
- 空白の区分を特定する: 埋めるかどうかは、起きたときの金額と確率で判断する
- 更新日を資金繰り表に載せる: 保険料の支払時期と、見直せる時期を同じ表で見る
私たちが一緒にやるのは、並べて空白を見つけるところまでです。個別の商品の選定や加入・解約は、保険代理店および顧問税理士にご確認ください。そのうえで一つだけ言えるのは、一覧を持っている会社は、災害の報道を見たときに自社の状況が即座に分かるということです。分かるかどうかが、初動の速さを決めます。