正確な月次を待つと、判断に間に合わない
── 早く締めるために捨てる精度
結果、試算表が出るのは翌月の下旬。そのとき手元に来る情報は、すでに一か月古い。
早く締めるために必要なのは、作業の高速化ではありません。どの精度を捨てるかの判断です。
1. 遅い理由は、作業の速さではない
締めが遅い会社に、入力が遅い会社はほとんどありません。日々の伝票処理は回っています。
遅れるのは待っている項目です。並べると、だいたい同じものが出てきます。
取引先からの請求書が月をまたいで届く。実地棚卸の数が確定しない。外注先からの作業報告が揃わない。経費精算が出てこない。
どれも、こちらが速く動いても早まりません。相手の都合で決まる項目だからです。
だから作業を効率化しても、締めの日は動きません。動かすには、待たずに数字を置くと決める必要があります。
2. 捨てていい精度と、捨ててはいけない精度
線はどこに引くか。基準は一つです。その数字で、何の判断をするのか。
月次で見たいのは、ほとんどの場合この三つです。売上が計画に対してどうか、粗利が落ちていないか、現金がどう動いたか。
この三つの判断に影響しない精度は、捨てて構いません。逆に、三つに直接効く項目は概算にしてはいけません。
- 捨てていい: 少額の経費の計上月のずれ、減価償却の月割の端数、前払費用の細かい按分
- 捨てていい: 実地棚卸の確定値(在庫は帳簿値または前月実績からの推定で置く)
- 守る: 売上の計上月(これがずれると粗利も計画比も崩れる)
- 守る: 主要な仕入と外注費(粗利に直接効く。金額の大きい先だけは確認する)
- 守る: 現金と預金の残高(これは実額で、ずれる余地がない)
この分け方の要点は、金額の大小ではなく判断への影響で決めることです。少額でも売上に関わるものは守り、金額が大きくても判断に効かないものは概算にします。
3. 概算で前に出す、四つの処理
具体的な置き方です。
①未着の請求書は、発注額で計上する。発注の記録があれば金額は分かります。届いてから差額を調整します。
②在庫は実地棚卸を待たない。帳簿在庫、または前月末の実績に当月の入出庫を加減して置きます。実地棚卸は四半期か半期に一度にするという割り切りです。
③少額経費は締め日で切る。月末までに出てきたものだけを当月に入れ、遅れたものは翌月に回します。追わないと決めます。
④償却や引当は年額の月割で置く。月ごとに計算し直しません。
これらはいずれも社内の経営管理用の月次把握としての処理です。確定決算および申告に用いる数値とは別のものとして扱います。棚卸資産の評価や引当金の計上には関係法令と会計基準にもとづく取扱いがあるため、顧問税理士および会計事務所への確認が前提です。
4. 確定値との差を、後から埋める
概算で出すと、必ず差が出ます。差を放置すると、年度末に大きな調整が来て信用を失います。
処理は三つ決めておきます。
①差額は翌月で調整する。当月の数字をさかのぼって直しません。直すと、配った資料と手元の数字が合わなくなります。
②差が一定額を超えたら報告する。金額の線を先に決めます。超えたときだけ、なぜ外したかを一行書きます。
③外した項目を三か月記録する。同じ項目が繰り返し大きく外れるなら、その項目は概算に向いていないということです。守る側に戻します。
この三つ目があると、概算の線が自社に合わせて調整されていきます。最初の線は仮置きで構いません。
5. 何日に出すかを決め、守る
最後が運用です。日を決めないと、概算にしても早くなりません。
決め方は、いま何日かかっているかを三か月測ってから。そこから数日だけ前に出します。一気に半分にしようとすると守れず、守れない日付は無意味になります。
そしてその日に出せなかった項目は、空欄で出す。揃うまで待つのをやめます。空欄のある試算表のほうが、出てこない試算表より役に立ちます。
見る側の心構えも変えます。概算であることを前提に読む。『この数字は概算です』と毎回断る必要があるなら、まだ運用になっていません。月次は概算、確定は決算という前提を先に共有しておきます。
先月の数字は、いま手元にありますか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。直近3か月の締めの日数と、詰まっている項目を一緒に洗い出します。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、複数の中小企業を自分たちで経営している集まりです。締めの日数は会社ごとに違い、速い会社と遅い会社の差は、作業量ではなく割り切りの量でした。
FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 直近3か月の締めの日数を測る(無料ヒアリング): いちばん遅い項目を特定する。たいてい一つか二つしかない
- その項目を概算に変えられるか判断する: 売上・主要仕入・現金残高に効くかどうかで決める
- 差額の調整ルールを決める: 翌月調整、報告の閾値、三か月の記録
- 出す日を数日だけ前に動かす: 守れる日付から始める
いちばん抵抗が出るのは、実地棚卸を毎月やめることです。精度が落ちることへの不安は当然ですが、毎月の実地棚卸のために判断が二週間遅れているなら、どちらの損が大きいかを比べる価値はあります。
なお、棚卸資産の評価や期末の会計処理、申告に用いる数値については関係法令および会計基準にもとづく取扱いがあり、顧問税理士および会計事務所に必ずご確認ください。私たちが一緒にやるのは、その前段にある経営管理用の月次を判断に間に合わせる作業です。