7割超が、退職金を
見直していない
増額・導入は7.8%、減額・廃止は1.9%。今後の検討も、増額・導入3.0%、減額・廃止0.9%にとどまります。
制度はほとんど動いていません。ところが資金のほうは動きます。
1. 制度の議題のまま、資金の議題になっていない
7割超が変更していないという数字は、関心の低さとして読まれがちです。ただ中小企業の現場を見ると、別の事情があります。
退職金は、社長の頭の中で制度の話として置かれています。規程があるかないか、水準が高いか低いか、同業と比べてどうか。
制度の話は、動かすのに手間がかかります。規程の変更には法令上の制約があり、とくに水準を下げる変更は簡単に通りません。だから保留になります。
保留にしている間、資金としての退職金は、誰にも数えられていません。いつ、いくら出ていくのか。これは制度を変えなくても、今日数えられます。
2. 退職金は、ある日まとめて出ていく
給与や社会保険料は毎月出ていくので、資金繰り表に載っています。賞与も年に二回なので、予定として置かれています。
退職金は違います。十年出ていかない年が続いた後、一年に三人分が重なることがあります。
重なる理由は単純です。同じ時期に採った人が、同じ時期に定年を迎えます。中小企業では、採用が事業の拡大期に集中していることが多い。
一人あたりの水準を下げる議論より先に、重なっている年を見つけるほうが実務では効きます。重なりは、支給の時期をずらす相談で動かせる場合があります。
3. 人ごとに並べると、山が見える
やることは表を一枚作るだけです。従業員が三十名なら、三十行です。
- 氏名と生年: 定年の年がそのまま出る。規程の定年年齢を足すだけ
- 入社年: 勤続年数が出る。支給額の根拠になる
- 支給見込額: 規程の算式で出す。規程がなければ、過去の支給実績から置く
- 積立の有無と手段: 共済か保険か、何もしていないか。手段ごとに別の列にする
これを定年の年で並べ替えると、どの年に何人分が重なるかが見えます。十年先まで並べると、たいてい二つか三つの山があります。
この表を作った社長が最初に驚くのは、山の位置ではありません。自己都合の退職が入っていないことに気づくことです。
定年前に辞める人にも、規程によっては支給します。だから山は見積の下限です。上振れる前提で見ます。
4. 積み立てているつもりで、現金になっていない
積立をしている会社でも、出すときに足りないことがあります。理由は三つです。
一つめ、現金化できる時期が合っていない。保険で準備している場合、解約返戻金の額は契約からの年数で変わります。山の年に、いちばん有利な時期が来ているとは限りません。
二つめ、加入していない人がいる。制度を作った後に入った人、途中で区分が変わった人。全員が同じように積まれていると思い込んでいる会社が多い。
三つめ、積立額の前提が古い。十年前の水準で設計した掛金が、そのままになっている。賃金が上がれば支給額も上がる算式なら、差が開いています。
だから表の四列目は、有無ではなく『いつ、いくら現金になるか』まで書く必要があります。これは契約内容を一件ずつ当たらないと出ません。
なお、共済制度や保険商品の要件、解約や受取にかかる税務上の取扱いには関係法令にもとづく定めがあり、取扱金融機関および顧問税理士への確認が前提です。
5. 減らす話をする前に、決めておくこと
山が大きすぎると分かったとき、水準を下げる話が出ます。ここには制約があります。
支給水準の引き下げは、労働関係の法令および裁判例上の制約がかかる領域です。自己判断で規程を書き換えるのは避けるべきところで、社会保険労務士および顧問弁護士の確認が前提になります。
そのうえで、実務として先に手が付くのは別の三つです。
一つめ、将来入る人の制度を分ける。既にいる人の条件を動かすより、これから入る人の設計を変えるほうが現実的です。
二つめ、積立の手段を山に合わせる。現金になる時期を、山の年に寄せていく。これは契約の組み替えで動きます。
三つめ、借入の返済と重ならないようにする。借入の最終返済と退職金の山が同じ年に来ていることがあります。これは借換えの相談材料になります。並べて初めて見えます。
水準の議論は時間がかかります。時間がかかる議論を始める前に、時間のかからない三つを動かすほうが資金は楽になります。
今後十年で、退職金がいちばん多く出る年はいつですか?
1分でできる財務体力チェック、もしくは無料ヒアリングから。支給時期の並べ方と、積立の現金化できる時期を一緒に確かめます。
6. BEYONDが伴走するときの動き方
BEYONDは、外から助言するコンサルではなく、複数の中小企業を自分たちで経営している集まりです。定年を迎える人がいる会社も、制度が無い会社も社内にあります。
何度も見てきたのは、退職金が資金繰り表に一行も載っていないことでした。賞与は載っているのに、退職金は載っていない。来月には出ていかないからです。
並べてみて起きたのは、二つでした。一つは山が思っていた年とずれていたこと。社長の体感は、いちばん年長の人の定年年でした。実際の山はその三年後で、三人が重なっていました。
もう一つは、積立が人によって全然違っていたことです。制度を作る前に入った人は積まれておらず、その人がいちばん先に定年を迎えました。
FLOWで伴走に入る場合、典型的にはこう進めます。
- 従業員名簿と規程を並べる(無料ヒアリング): 生年と入社年があれば、その場で山が出ます
- 積立の契約を一件ずつ当たる: 誰がいくら積まれていて、いつ現金になるかを書き出す
- 山の年と、借入の返済予定を重ねる: 同じ年に来ているものを探す
- 専門家に渡す議題と、自社で動かす議題を分ける: 規程の変更は専門家、積立と借入は自社で動かせます
いちばん抵抗が出るのは、特定の社員の名前と金額が並ぶことです。表に実名が出るので、扱いに気を使います。ここは作る人と見る人を限り、保管場所を決めてから作るほうが進みました。
なお、規程の変更、退職給付の会計処理、共済や保険の要件については社会保険労務士・顧問弁護士・顧問税理士に必ずご確認ください。私たちが一緒にやるのは、その前段にある、人と年を並べて山を見つける作業です。